失われた未来を求めて

飼っているメダカが死にかけている。というか、死んでしまった、二匹。あと八匹生き残っている中でも、三匹がおそらく「水カビ病」という病に冒されていて、体表面に白いワタのような病巣ができ、フラフラと力なく泳いでいる。危険域にいる三匹は、塩をまぶした別の水に隔離して(塩浴というらしい。自然治癒力を高める効果がある)、熱帯魚店で買ってきたメチレンブルーという治癒薬で薬浴させている。メチレンブルーというのは、絵具のように青い液体なのだけど、光と反応して殺菌効果を生む。水カビ病の治療薬としてネットで推奨されていたので、あまり知識もなく買って、やぶれかぶれで運用している。何か手を打たないと、死んでしまうから、やぶれかぶれでも、とりあえずやってみるという現状。今夜が山かもしれない。明日、目が覚めて、ぷかぷかと死体が浮かんでいるビジョンが目の前を掠めて、かと言ってどうしようもない。世話を怠けていたのが原因かもしれない。水質悪化が、弱い命にとって死神になってしまった。命を預かる自覚がない、と、死んでしまった二匹を埋める穴を掘りながら、ぼんやりと思っていた。

 

メダカを飼うつもりなんて、元より無かった。仕事先で水槽セットと共に譲ってもらって、というか押し付けられて、なし崩し的に飼うことになった。昔、熱帯魚を、ポリプテルスという古代魚を飼っていたことがあり、メダカは餌として、ポリプテルスにあげていた。力いっぱいで飼うような魚ではない、メダカなんて。所詮、熱帯魚店でも肉食魚の餌として売られている魚なのだった。本当は、そんなレッテルもジャンル分けも、僕らの関係にとってはどうでもいいことなのに。顔を突き合わせて、一つ所で生活していれば、それは共同生活者でしかなく、そういった関係性に対して、存在のレアリティーといったことは意味を為さなかった。僕にもメダカにも、今、ここが全てで、それ以外の諸事情については何ら感知していない。家族も僕は、メダカが、全てであって、メダカも僕に対してしか、未来の可能性を見出していないのだった。

 

厄介な存在を抱えてしまった。人生の道連れが、口をパクパクすることしかできない水中生物になってしまった。明日を、朝を、迎えるのが怖くて、日記を書いている。ぷかぷかとした水死体が、夜の先にあるかもしれなくて、それが怖いのだった。