色道
昨年、恩師が亡くなった。
十年会っていなかった。過ごした時間も短かった。
だから殊更、もったいぶって思い出を語るような立場にはない。
悲しみや痛みの震源地から遠く離れている。
でも。それでも揺らいでしまって、死のまわりをぐるぐると回り、
何かを書こうかと思案しては辞めて、という反復を続けている。
希望を抱いて映画の学校へ入ってきた若者に、
だらだらとした酒飲みの時間感覚と、映画には期待できないという深い絶望と、
血を見るような思いでホンを掘り下げるという、ホン書きとしての基本マナーと、
良い立ち飲み屋と、よくわからないピンク映画を教え、
いびつな創作者に仕立て上げた。魔改造した。崖から突き落とした。
マッドサイエンティストのような、無慈悲な人間が他でもない恩師であって、
改造人間としては、憎悪と侮蔑の入り混じった尊敬の念を、
離れてからもずっと抱いてきた。
受け取ったいびつな財産を、やぶれかぶれに振り回して、
これからもホンを書き続けるしか、
マッドサイエンティストに報いる道ははない。
残念で悔しくて、糸の切れた凧のように、ふらふらとまだ、
やり切れずに、ぐるぐると、反復している。