そしてウンコを、天国を

『G戦場ヘヴンズドア』という漫画が昔好きだった。日本橋ヨヲコという、ともすれば「ウエッ」と食事を戻しそうになる作風の、アクの強い女性漫画家が描いた、漫画家を目指す高校生の話だ。邪宗まんが道』とでも呼ぶべき漫画で(関係ないけど、昔「邪宗まんが道」というWEB小説があった)、セリフから輪郭線に至るまで強度に満ち溢れた邪道の青春ストーリーである。主人公の町蔵君は人気漫画家を父に持ち、コンプレックスを抱えながら、しかし漫画家になりたいという夢を捨てきれないで生きている。そんな町蔵君が、圧倒的な才能を持つ鉄男という同級生に出会い、挫折を何度も繰り返しながら、やがて正々堂々と逃げ隠れせず漫画に向き合うようになる、というのが本筋で、嫉妬の話であり誤解の話であるけれど読後感はポジティブで、天国に突き抜けるような幸福感がある。

 

友人である佐山氏と、新宿のロックバーで明け方、飲んでいて、佐山氏がビーチボーズの「Wouldn't it be nice」をかけたことがあった。この曲を聴くと天国にいる気持ちになるんだよ、とグデングデンに酔った佐山氏は大真面目に語っていた。確かに、と思った。確かに、今にも吐きそうな瞬間に、何か天国のような時間が訪れたような気がした。ブライアン・ウィルソンは、サーフボードには乗れなかったけれど、天国を作った。

 

天国というのは、孤独な人間が、一人の人間の行いとして、現世に作り上げるものなのだった。日本橋ヨヲコも、ブライアン・ウィルソンも、あるいはセルジオ・コルブッチにしたって(『豹/ジャガー』のラストは天国以外の何物でもない)、歩き始めた瞬間には孤独で、自分の仕事を行うという意図しか持っていなかった。でも、辿り着いた場所は違ったし、孤独な空想が現実を飲み込んで書き替えるという結末に至ったのだった。現実ではない幸福な何かを作り上げたのだった。

 

僕がそうなれるかというのは分からない。ただ、僕はこの9月に、確かに何かを作った。そして、その何かは少しだけ、幸福な感情を帯びているように思う。