忌み子に生まれて

珍名というほどではないが、母数の少ない苗字に生まれた。「〇〇という字に、■の■で、〇■です」と、これまで何度説明してきただろうか。しかも活舌が悪いので、たいていは間違って伝わるし、訂正するのも面倒なので放っておくことも多い。

 

生まれは関東だけれど、先祖を辿っていくと鹿児島の離島に行き着くと、両親から聞いたことがある。なんでもその島に、一族代々の墓があるという話だった。島の名前で検索してみると、ぼくと同じ苗字の、おそらく血縁のある人たちのフェイスブックが何件かヒットする。新鮮な魚介の写真や、ダイビング中に撮ったウミガメの写真(島自体が、有名な産卵地らしい)を、のんびりとした笑顔の日焼け男が次々アップロードしており、どうやらそれが血の繋がった遠い片割れなのだった。本来の僕が歩むべき人生も、きっとこの、ウミガメ日焼け人生だったに違いない。島でゆっくりと循環していた魂が、他の血が入り混じった土地に紛れ込んだばかりに、ミスタービーンのような混乱と誤解とが幾多も生まれることになってしまった。「忌まわしい」とは、存在してはいけないものが存在しているという意味の言葉で、存在してはいけないものというのが僕なのだ。忌み子、という単語が、電気信号で呼び起こす必要もなく、前頭葉の一番前をずっと陣取っている。本当の人生では、南の島で血を濃くしていたはずだった。

 

調べていくと、その離島というのもいわくのある場所なのだった。というのも、江戸時代に隠れキリシタンが落ち延びた島、というのは史実としてあるらしい。南の離島なんぞに流れ着くような人間なんて、はみ出し者というか、裏の事情を抱えている奴らしかいない。そういった裏人間の遺伝子を何世代にも渡って濃厚にかけ合わせていけば、ろくなことにはならない。これはネットに転がっていた、真偽のかなり怪しい説ではあるけれど、離島に辿り着いた隠れキリシタンは特殊な変遷を経て、カニバリズムを主体とした邪教と化していたという一説もある。その島は、南の海に浮かぶ、呪われたウミガメ島なのだ。実話ナックルズ根本敬がネタにしそうな因果話の末端に、あろうことか連なってしまっている。